大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ラ)758号 決定

抗告人

ソントン食品工業株式会社

右代表者代表取締役

石川紳一郎

右代理人弁護士

青柳洋

主文

一  本件執行抗告を棄却する。

二  執行抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告の申立書」に記載のとおりである。

二  会社更生法六七条一項は、更生手続開始の決定があったときは、更生債権または更生担保権に基づく会社財産に対する競売はすることができず、更生債権又は更生担保権に基づき会社財産に対し既にされている競売の手続は中止すると定めており、ここにいう競売には、動産売買先取特権に基づく債権に対する担保権(物上代位)の実行も含まれるから、動産売買先取特権に基づく債権差押命令の申立てがされても、その差押命令発令前の段階で更生手続の開始決定があった場合には、債権差押命令を発令することはできず、右債権差押命令申立は却下されると解すべきである。

抗告人は本件債権差押命令の申立てを平成一〇年三月二日に行い、原裁判所から疎明資料の追売を促されているうちに、同月一二日午後五時、債務者の株式会社東食に対し更生手続開始の決定があったものであるから、本件債権差押命令の申立ては却下されるべきものである。ところで、抗告人は、本件差押命令の申立書を同年二月二七日に原裁判所に提出したが、原裁判所は同年三月三日に疎明資料の追完を促し、同年三月一〇日に要求されたとおりの追完を行っていたのに、原裁判所が債権差押命令の発令をしないまま手続を遷延して同年三月一二日に至ったもので、原裁判所の手続は公正を欠くものであると主張する。しかし、仮に右主張のとおりであったとしても、本件債権差押命令の申立ての受理は同年三月二日であり、抗告人が本件と同種事件の申立てを他に一〇件して、すべての事件に疎明資料の追完がされる前に同月一二日に至っていることを考慮すると、原裁判所において違法な手続遅延があったと認めることはできない。

三  よって、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官大島崇志 裁判官寺尾洋 裁判官豊田建夫)

別紙執行抗告の申立書

原決定の表示

主文

一 本件申立てを却下する

二 申立費用は申立人の負担とする

理由

(省略)

上記原決定に対し民事執行法第一〇条第一項、第一四五条第五項に基づき執行抗告を申立てる。

執行抗告申立の趣旨

原決定を取消す

との裁判を求める。

執行抗告申立の理由

(一) 本件の経過の概略

一 債権者ソントン食品工業株式会社の代理人として東京地方裁判所民事第二一部に対し、債務者(株)東食、第三債務者丸木商事(株)、有限会社塙商店、三和産業(株)とする債権差押命令申立事件三件の申立てを行ったのは平成一〇年二月一二日である。

二 その際、私は縦書きの申立書を提出したのであるが受付の書記官(氏名不詳)から横書きの書式に変更することを求められた。また商品目録として、売上日、商品名、数、単価、請求金額を一行毎に読める形にすることが必要であり、エクセルバージョン、三五インチのフロッピーディスクを提出するように勧告された。その他の書類は整備されているということであり当日は三五七番、三五八番、三五九番の仮番号事件として受理された。

三 二月一九日私は債権者会社の担当者、吉田和由と共に民事第二一部を訪れ横書きに訂正した債権差押命令申立書を提出するとともに、吉田が持参したフロッピーを提出したところ裁判所の機械でアクセスできないとのことであった。中村書記官と吉田とが立ち会って調査したところ裁判所の機械が改良前の旧い形式のもの(その后五回の様式改良を経ているとのことである)であることが判明した。そこで持参したフロッピーを旧い形式のものに作り直して提出することとした。

四 二月二四日、私は吉田とともに二一部を訪れ中村書記官に面接し作り直したフロッピーとその内容を一覧表にしたものを提出したところ、これで宜しいということになり、証拠書類の原本も同書記官に預け、債務者及び第三債務者に対する送達用の封筒も郵券も凡て提出して三件分の手続きを完了した。そして更に八件の申立てをする予定であるから凡てこの三件と同様な形式で提出することを予告しておいた。

五 この追加の八件の申立書を提出したのは、二月二七日であり、本件もこの八件の中の一件である。この際は斉田書記官、高田書記官が提出書類を点検した。ここでも三に記載したのと同様にフロッピーがアクセスできないという問題に直面したが、それも凡てクリヤーして手続きを完了し、あとは差押命令が出されて債務者及び第三債務者に送達される手続が残されるだけの状況になった筈である。

前記の三件のほか、追加の八件を含めた一一件の事件番号を記載した事件受付表がこの時に手交された。

六 ところがその後三月三日になって高田書記官から会社の吉田に対して、商品目録記載の商品について第三債務者の受領書を提出するようにとの連絡があった。それを果たすためには、更に多大な労力と時間を要することであり、商品を第三債務者が受領していることは他の証明書類で十分に証明されている筈と思い不審の感を抱いた。

然し命令を得るためには止むを得ないので、その収集を始め三月一〇日に第三債務者丸木商事(株)、及び正栄食品工業(株)の二件分の商品受領書類を提出し更に三月一二日にオーランドフーズ(株)、日産商事(株)、有限会社塙商店、三和産業(株)、陽光産業(株)、の五件分を提出した。

この日に(株)東食の債権者集会が民事八部によって別に開かれていたが、高田書記官からこの一一件の債権差押命令申立てを取り下げるようにとの勧告を受けた。私は従来の経過を述べまた後記のような法律上の見解も述べて取下げには応じないことを伝えた。高田書記官は裁判官と相談してくるとのことで私どもは待機していたが、裁判官との相談の結果が如何なるものであったか伝えられることはなかった。私どもは未完の商品受領書の収集を続行し、出来上がったものから逐次持参提出すると伝えて帰った。

その夕方高田書記官から会社の吉田に対して、午後五時三〇分に更生開始決定が出されたから申立てを取り下げるようにとの勧告が再度電話で伝えられた。

七 三月一三日私と吉田は共に二一部を訪れ、高田書記官に面接し私は取下げには応ずる意思のないことを伝えた。この日も未完の商品受領書を受領証明書の形で二件分を持参していたが、開始決定後で受領されないことが明らかであるから提出しなかった。

そして三月一九日に本件申立却下の決定がなされ同月二三日にその送達を受けたものである。

以上が従来の経過の概要である。

(二) 法令の違反 その一

一 先ず最初に強調したいことは(民事第二一部)のこの件に対する対応は甚だ公正を欠いた不当なものであるということである。

動産売買先取特権に基づく物上代位として債権差押命令申立を行うのは債権者として当然のことであり、それが民事八部の更生開始手続きと時間的に先後を競う事態になることは十分に予想されることである。

今回の一連の手続中において民事二一部から補完、補正を求められたものが凡て必要なものであり、これを補わなければ差押命令が拒否されるようなものであるか否か深い疑問を持つ。然し今ここではその点には触れないことにする。ここで指摘したいことは補完、補正の勧告が何回にも亘って次々に行われ、その為に時間が遅れてしまったことである。

初めの早い段階に勧告されていれば、これを凡てクリヤーして手続きを完了し得たことは明らかである。

二 丸木商事、塙商店、三和産業に対する三件の申立てについて、私共が手続きを完了したのは(一)の四に記載したように二月二四日のことである。然しこの三件について民事二一部がその後差押命令送達の手続きを進めた形跡は見られない。若し第三債務者の商品受領書が必要であるというのであれば、この時期に補完が求められなければならない。そしてこの時期に補完が求められていれば一一件全部について、商品受領書の追完は更生開始決定時までに完了できたことを断言できる。これを妨げて完了できなかったのは民事二一部の対応の遅延及び不適切に因るものである。

三 更に丸木商事と正栄食品の二件については三月一〇日に受領書に追完を了っているのにこの二件について手続きが進められた形跡もない。

塙商店、三和産業、日産商事、オーランドフーヅ、陽光産業の五件について受領書を追完したのは三月一二日でありその日の夕刻に開始決定がなされたのであるが、私どもがこの追完を了った時にはまだ開始決定はなされていない。然るにこの時点で高田書記官から申立取下の勧告がなされているのである。差押命令手続きの促進を図るべき民事二一部がまだ開始決定がなされていない時期に申立取下げを勧めるというのは、まことに不可解なことと謂わなければならない。

私が民事二一部の対応が甚だ公正を欠く不当なものであるという理由はここにある。

そしてこの一連の事実は、二月二四日以降民事第二一部は差押命令の手続きを全く行わず、ひたすら民事第八部の更生開始決定が出るのを待っていたものと謂わざるを得ない。これでは差押命令を申し立てた債権者としては差押命令を得る途は全く閉ざされて了っているのであり、これが法令の違反に当たることは間違いない。

民事執行規則第六条第二項には執行抗告の理由が法令の違反であるときはその法令の条項も摘示すべきことを規定しているが民事二一部が定められた手続きを忠実、迅速に進めるべきことは何法の何条に定められる以前の当然の問題であり、これに反する行為が法令の違反に当たることは明らかなことである。

四 法令の違反 その二

原決定は、債務者である株式会社について平成一〇年三月一二日午後五時更生手続開始決定がなされた(平成九年ミ第一三号会社更生手続開始申立事件)ので、会社更生法第六七条一項前段により本件申立ては不適法として却下さるべきものであるとしている。

然し第六七条一項前段が更生手続開始の決定があったときは強制執行はすることができずといっているのは開始決定後には新たに強制執行の実行はすることができないことを定めているものであり、既になされている強制執行の実行手続は同項後段によって中止さるべきことが明らかに定められている。

原決定のように既になされている実行手続きも凡て不適法として却下されるのであれば一項後段の対象になるものは無くなって了い一項後段の規定自体が存在の意義を失ってしまうことになる。

本件はこの一項後段によって文字通りその時点において、その状態のまま中止することになるのであって、従来の状態が消滅するのでもなく、従来の効力が失われてしまうわけでもない。

このことは同法第二四六条第一項に(更生計画認可の決定があったときは、第六七条第一項の規定によって中止した……強制執行…の実行手続はその効力を失う。)と規定されていることからも明らかである。更生計画認可の決定までは、中止されたまま効力は存続し、認可決定によってその効力を失うものであることが明らかである。

また、更生計画不認可の決定が確定したときは、本件東食の件は職権で破産手続に移行することは先ず疑問の余地のないことと考える。そして破産法第九二条によって、特別の先取特権を有する者はその目的たる財産につき別除権を有するのであり、先取特権者は債務者が破産宣告を受けた後においても物上代位権を行使することができることを最高裁判所判決(昭和五九年二月二日民集三八―三―四三一)も示している。

以上何れの意味からしても本申立が却下されるのは理由のないことであり、速やかに取り消されるべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例